マイ楽器との出会いを求めて
ヴァイオリンは本当に多くの楽器メーカーや工房が製作しているので選択肢が多すぎて迷う(贅沢).僕はいくつかの幸運が連なり,昨年末に初めて自分の楽器をお迎えできた.今日はそれが実現するまでの経緯を記しておきたい.
ヴァイオリンのレッスンを始める時点ではお借りした楽器で練習をしていた.楽器としては全く問題なかったが,そのうち自分の楽器を持ちたいな,と思いつつ,2年ほど経った.
そんな折,先生のご紹介で昨年の3月に,クロサワバイオリンの楽器フェアに伺った.この時はいろいろな楽器に触れてみたいと気楽な気持ちでいた.
実はヴァイオリンの専門店に入るのはこの時が初めてで,少し緊張していた.でも対応してくださったお店の方がとても丁寧で,安心して試奏させていただいた.
展示品については,さすが専門店の楽器フェア!大変良い楽器(とお値段)で,すごく貴重な経験になった.
特に印象に残っているのが,構えた時の重さと弾き心地,そして音色の3点. 楽器の個性もあると思うが,僕が気に入った楽器はまずとても軽い.羽を肩に乗せたかのようなフワッとした感覚に驚いた.そして弓を乗せると,それだけで部屋に音が広がっていく.全く引っかかりを感じさせない演奏感だった.
また,楽器ごとに音色が本当に違う.空気を纏ったかのような透明なもの,音に質量があるかのような重厚なもの,ツヤツヤと光り輝くようなものと様々で楽しい.
そんな話を先生やお店の方と話しながら,純粋にいろいろな楽器を試奏した.自分の中にしっかりと「心地よい演奏感」が刻まれたと思う.そして対応してくださった方の人柄もよく,いつかこのお店で購入したいと思った.
それから半年ちょっと経ち,コンサートを聴いたり公開レッスンに参加したりするうちに,日に日に楽器が欲しい気持ちが高まり,これはもう手に入れる機会が来たと自分でも分かった.そこで先生にご足労いただき,一緒に楽器を見ていただくことにした.
いろいろ日程調整をして,12月,再びクロサワバイオリンでお待ち合わせ.先生には事前に幾つかのヴァイオリンを試奏していただいていて,候補があった.それに加えて当日出していただいたヴァイオリンを試奏し,最終的に2挺まで絞れた. 候補はKlaus HefflerとRoderich Paesold .どちらもドイツ製の新品で弾き心地は抜群.Heffler の方は少し重厚でハリのある感じで,Paesold はそれに比べると繊細で柔らかな印象を受けた.正直かなり迷ったが,「音色が好きな方が良い」との先生のお言葉で後押しされ,Paesoldの方を選んだ.
こうして僕のもとにヴァイオリンをお迎えできた.おかげで今とても楽しく弾いている.
振り返ってみると,いくつか大切にした方が良さそうなことがあった.
- たくさんの楽器に触れていること
- 第3者視点で見る(聴く)機会があること
- 自分が好きな音色であったこと
最終決断は3つ目の音色だったけど,そこに至るまでのプロセスの積み重ねがあればこそだったと思う.楽器の印象はある程度相対的な部分もあり,自分の中でどれだけ幅広い範囲の中で相対づけられるかが大切に思う.3月の試奏では数万〜数千万円という,やや極端な価格帯のヴァイオリンを弾かせていただいた.たった1日ではあったけど,それまで全く知らない世界を知ることができたのはとても大きい.
また演奏時と聴く立場では聞こえ方がまるで違う.僕はヴァイオリンを初めて日が浅いこともあり,特に顕著に違いを感じる.自分の音を客観視できていないということかもしれない.試奏時に同じ楽器を先生が弾いてくださったり,僕が弾いた音にお店の方がコメントくださったりしてとても参考になった.
そして3つ目は,「最終的に自分が選択する」というつもりでそれまでのプロセスを経てきたことだ.先生のおすすめ,楽器屋さんのおすすめも大切なご意見ではあるが,その上で主体的に選択するつもりがあるか.このことが決断結果を受け入れられるかにつながっているように思う.
こうしてみると,たかが楽器選びではあるが,自分らしく生きていく姿勢の話にもつながるかもしれない.
このヴァイオリンとともに,素晴らしい音楽との出会いがあることを祈っている.